CHAPTER 02

特別支援教育とICT

すべての子どもの学びを支える専門的アプローチ

🌈
インクルーシブ教育とICTの役割

📚 「特別な配慮」から「当たり前の選択肢」へ

かつてICTは「障害のある子どものための特別な道具」と捉えられていました。しかし現在は、すべての子どもの学びを保障する基盤として位置づけられています。

眼鏡をかけることが「特別」ではないように、ICTを使って学ぶことも「自分に合った学び方の選択」として当たり前になりつつあります。

💡 とは
インクルーシブ教育とは
障害の有無にかかわらず、すべての子どもが同じ場で共に学ぶ教育のあり方。2006年の国連障害者権利条約で提唱され、日本でも2012年の中教審報告で方向性が示されました。「分離」ではなく「包摂(インクルージョン)」を目指し、多様性を尊重する教育システムです。

インクルーシブ教育とは、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが共に学ぶ教育のあり方です。「分離」ではなく「包摂(インクルージョン)」を目指し、一人ひとりの違いを尊重しながら、同じ場で学べる環境を作ります。

📌 ICTがインクルーシブ教育を支える3つの方法

アクセシビリティの確保:読み上げ、拡大、音声入力などで情報へのアクセスを保障
多様な表現方法:文字・音声・画像・動画など、自分に合った方法で表現できる
個別最適な学習ペース:一人ひとりの理解度に合わせた学習が可能

🏠 保護者として知っておきたいこと

「うちの子だけ特別扱い?」 → ICTは全員の選択肢。使うことで自信がつく子も多い
「甘やかしでは?」 → 眼鏡と同じ。困難を補う道具は「ずるい」ではない
「診断がないと使えない?」 → 診断の有無に関係なく、必要な支援は受けられる

子どもの「できない」ではなく「こうすればできる」に注目しましょう。

🏫 教育者として押さえておきたいポイント

全員への提示:支援ツールは特定の児童だけでなく、全員に選択肢として提示する
スティグマの回避:「あの子だけ特別」と思われない環境づくり
との連携:第1章で学んだUDLの考え方がインクルーシブ教育の基盤

UDL(学習のユニバーサルデザイン)とは
Universal Design for Learningの略。最初からすべての学習者のニーズを考慮した教育設計の枠組み。「多様な提示方法」「多様な行動・表現方法」「多様な取り組み方法」の3原則に基づき、後から配慮を追加するのではなく、最初から多様性を前提にデザインします。

「この子には無理」ではなく「どうすればできるか」を考える姿勢が重要です。

🧠
発達障害特性に応じたICT活用

発達障害のある子どもへのICT支援は、特性を理解し、強みを活かすアプローチが重要です。ここでは代表的な3つの特性とICT活用法を紹介します。

傾向
ADHD(注意欠如・多動症)とは
Attention Deficit Hyperactivity Disorderの略。不注意(集中困難、忘れ物)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考える前に行動)を特徴とする発達障害。脳の実行機能の発達の違いが原因とされ、適切な環境調整や支援により強みを活かせます。人口の約5%に見られます。
注意・集中・衝動性への支援

特性:注意の持続が難しい、衝動的に行動する、じっとしていられない、逆に過集中になることも。興味のあることには高い集中力を発揮する強みがある。

📱 ICT支援の例:
タイマー・リマインダー:時間の可視化、切り替えの合図
:報酬やポイントでモチベーション維持
ゲーミフィケーションとは
ゲームの要素(ポイント、バッジ、レベルアップ、ランキングなど)を教育や業務に取り入れる手法。学習意欲の向上、継続率の改善、即時フィードバックによる達成感の提供などの効果があります。ADHDの子どもには特に有効とされています。
短い動画教材:5分程度の区切りで集中しやすく
ノイズキャンセリング:聴覚刺激を減らして集中環境を確保
🧩
傾向
ASD(自閉スペクトラム症)とは
Autism Spectrum Disorderの略。社会的コミュニケーションの困難、限定された興味・反復的行動を特徴とする発達障害。「スペクトラム(連続体)」という名称は、特性の現れ方が人によって大きく異なることを示しています。論理的思考力、細部への注目力、パターン認識能力などの強みを持つことが多いです。
社会性・コミュニケーション・感覚への支援

特性:対人関係やコミュニケーションの困難、こだわりの強さ、感覚過敏または鈍麻。一方で、論理的思考、細部への注意、パターン認識などの強みがある。

📱 ICT支援の例:
視覚スケジュール:見通しを持てるデジタル予定表
予測可能なUI:一貫したデザイン、突然の変化を避ける
テキストコミュニケーション:対面より文字でのやり取りが得意な場合
感覚調整:画面の明るさ・音量の個別調整
📖
傾向
LD(学習障害)とは
Learning Disabilityの略。全般的な知的発達に遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった特定の能力の習得・使用に著しい困難を示す状態。脳の情報処理の仕方の違いが原因で、適切な支援により学習を進めることができます。
読み書き・計算への支援

特性:知的発達に遅れはないが、読む・書く・計算するなど特定の学習に著しい困難がある。など。

ディスレクシア(読字障害)とは
文字を読むことに特異的な困難を示す学習障害。文字と音の対応(デコーディング)に困難があり、読み間違い、読み飛ばし、読む速度の遅さなどが見られます。音声読み上げ(TTS)やオーディオブックなどのICT支援が有効です。
ディスグラフィア(書字障害)とは
文字を書くことに特異的な困難を示す学習障害。文字の形を覚えられない、バランスよく書けない、書く速度が極端に遅いなどの特徴があります。キーボード入力や音声入力などのICT支援により、思考を文章化することが可能になります。
ディスカリキュリア(算数障害)とは
数の概念や計算に特異的な困難を示す学習障害。数の大小の理解、暗算、九九の暗記、文章題の理解などに困難が見られます。電卓の使用許可、視覚的な数の表現ツール、ステップごとの計算支援ソフトなどが有効です。
📱 ICT支援の例:
:文字を読むことの困難をカバー
TTS(音声読み上げ)とは
Text-to-Speechの略。テキストデータを人工音声で読み上げる技術。ディスレクシアの子どもが教科書や問題文を「聞いて」理解することを可能にします。スマートフォンやタブレットに標準搭載されており、読み上げ速度や声の種類も調整可能です。
音声入力:書くことの困難をカバー
デジタル教科書:文字サイズ・フォント・背景色の調整
計算支援ツール:電卓、数式エディタの活用
🏠 家庭でできるICT支援

ADHD傾向:スマホのタイマーで「あと5分」を可視化、学習アプリのゲーム要素を活用
ASD傾向:1日の予定をアプリで共有、急な変更は事前にメッセージで伝える
LD傾向:本を読み上げてくれるアプリ、音声メモで宿題の内容を記録

「診断」がなくても、子どもに合った支援を試してみることが大切です。

🏫 教室での支援のポイント

個別の教育支援計画との連携:ICT活用を計画に明記し、チームで共有
アセスメントの活用:特性を正確に把握してから支援方法を選定
本人の意見を聞く:どの支援が使いやすいか、本人と一緒に選ぶ

特性は一人ひとり異なります。「〇〇障害だから△△」と決めつけず、個別に対応しましょう。

🔧
アシスティブテクノロジー

とは、障害のある人の機能を補助・代替・拡張する技術の総称です。特別な機器だけでなく、スマホやタブレットの標準機能も含まれます。

アシスティブテクノロジー(AT)とは
Assistive Technologyの略。障害のある人の生活や学習を支援するための技術・機器・サービスの総称。ローテク(拡大鏡、筆談ボード)からハイテク(音声認識、視線入力)まで幅広く、本人の能力を補完・代替・拡張することで、自立と社会参加を促進します。

🛠️ 主なアシスティブテクノロジー

👁️
視覚支援
視覚に障害がある、または文字を読むことに困難がある場合の支援技術。
例:、拡大鏡、音声読み上げ、点字ディスプレイ
スクリーンリーダーとは
画面上のテキストや操作要素を音声で読み上げるソフトウェア。視覚障害者がコンピュータやスマートフォンを操作するために不可欠なツールです。iOSのVoiceOver、AndroidのTalkBack、WindowsのNarratorなどが代表的です。
👂
聴覚支援
聴覚に障害がある場合の支援技術。音声情報を視覚化する。
例:字幕生成、、補聴支援アプリ、振動通知
音声文字変換とは
Speech-to-Text(STT)とも呼ばれる、音声をリアルタイムでテキストに変換する技術。聴覚障害者が会話や授業内容を文字で確認できるほか、議事録作成などにも活用されます。GoogleのLive Transcribe、UDトークなどが代表的です。
運動・操作支援
手や指の動きに困難がある場合の支援技術。入力方法を代替する。
例:音声入力、、スイッチデバイス、タッチ調整
視線入力とは
目の動きを検出して、視線でコンピュータを操作する技術。手や指を使わずに画面上のボタンを選択したり、文字を入力したりできます。重度の肢体不自由や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などで四肢の動きが制限される方のコミュニケーション手段として活用されています。
📌 スマホ・タブレットの標準アクセシビリティ機能

特別な機器を購入しなくても、多くの支援機能がスマホ・タブレットに標準搭載されています。

iOS(iPhone/iPad):、読み上げコンテンツ、アクセスガイド、スイッチコントロール

VoiceOverとは
AppleのiOS/macOSに標準搭載されているスクリーンリーダー。画面上の要素を音声で読み上げ、ジェスチャー操作で視覚障害者がデバイスを使用できるようにします。設定>アクセシビリティから有効化でき、追加費用なしで利用可能です。
Android:、選択して読み上げ、ユーザー補助機能メニュー
TalkBackとは
GoogleのAndroidに標準搭載されているスクリーンリーダー。画面上の要素を音声でフィードバックし、視覚障害者がAndroidデバイスを操作できるようにします。設定>ユーザー補助から有効化できます。
共通:文字サイズ変更、色反転、字幕設定、音声入力

🏠 家庭で試せるアクセシビリティ機能

まずは設定を確認:「設定」→「アクセシビリティ」で利用可能な機能を一覧
読み上げ機能:本を読むのが苦手な子に。教科書の内容も読み上げ可能
音声入力:書くのが苦手な子に。話すだけで文章に変換

特別な機器を買う前に、今あるデバイスの機能を試してみましょう。

🏫 学校でのAT導入ポイント

GIGAスクール端末の活用:ChromebookやiPadの標準機能を最大限活用
段階的な導入:いきなり高機能なものではなく、シンプルなものから試す
専門家との連携:特別支援教育コーディネーター、外部専門家と相談

ATは「使わせる」のではなく、本人が「使いたい」と思える導入が大切です。

⚖️
合理的配慮の実践

とは、障害者差別解消法に基づき、障害のある人が他の人と平等に活動できるよう、個別の状況に応じて行う必要かつ適当な変更・調整のことです。

合理的配慮とは
障害者権利条約・障害者差別解消法に基づく概念。障害のある人が他の人と平等に権利を行使できるよう、個別の状況に応じて行う必要かつ適当な変更・調整のこと。2024年4月からは民間事業者にも義務化されました。「過重な負担」でない限り、求めに応じて提供する必要があります。
💡 合理的配慮の基本的な考え方

本人・保護者の意思表明に基づいて提供する
過重な負担とならない範囲で対応する
建設的対話を通じて合意形成を図る
個別性を重視し、一律の対応ではない

✅ ICTを活用した合理的配慮の例
🏠 保護者として合理的配慮を求めるには

相談の第一歩:担任や特別支援教育コーディネーターに困っていることを伝える
具体的に伝える:「〇〇の場面で△△に困っている」と具体的に
一緒に考える姿勢:学校と対立するのではなく、一緒に解決策を探る

合理的配慮は「権利」です。遠慮せず、必要なことは伝えましょう。

🏫 学校での合理的配慮提供のポイント

記録の重要性:提供した配慮とその効果を記録し、引き継ぐ
校内体制:担任だけでなく、組織として対応する仕組み
入試・進学への接続:中学・高校・大学入試でも配慮申請が可能であることを伝える

1級指導者として、校内の合理的配慮の体制づくりにも貢献しましょう。

💡
今日の学びをふりかえろう

ここまでの内容を踏まえて、特別支援教育におけるICT活用について考えてみましょう。

🌟 学習のふりかえり
あなたの環境で最も取り組みたい支援は?
A
注意・集中の支援(ADHD傾向) - タイマー、リマインダー、ゲーミフィケーション等
B
社会性・感覚の支援(ASD傾向) - 視覚スケジュール、予測可能なUI等
C
読み書きの支援(LD傾向) - 音声読み上げ、キーボード入力等
D
クラス全体のインクルーシブ環境 - UDLに基づく学習環境設計